
写真1中央公園のエノキ
(機関誌ミドリ138号2025)
身近に生える扇形樹形の木 ケヤキ・ムクノキ・エノキ
林 将之
関東地方の風景を象徴する樹木といえば、扇形に枝を広げたケヤキを思い浮かべます。街路樹、公園、屋敷林、雑木林など、あらゆる場所にケヤキの大木が多いことが、関東地方の特徴といえるでしょう。
その美しさ、大きさ、季節ごとに見せる姿は、関東平野の広さと相まって印象的です。私もそうであったように、地方から東京に訪れた人は、「大きな木がたくさんあって、意外にも緑の豊かさを感じた」と感想をもらす人が多くいます。
昨秋にたまたま茅ヶ崎市を訪れた際も、ホテルの前に見事なケヤキが立ち並ぶ中央公園があったので、翌朝の日曜日に散策すると、紅葉したケヤキの周囲に人々たくさん集まってイベントが開かれており、とても壮大で和やかな景色に見えました。私の住む山口県では、ちょっと見られない広々感と大木のスケール。やはり関東地方は、ケヤキの存在感が圧倒的だなと再認識しました。(写真1)
ケヤキは、樹形が美しい木、として知られています。その名の由来も、一際優れていることを表す「けやけき」木から来ているといわれ、端整な扇形の樹形が昔から称えられていたようです。しかし、扇形の樹形だけを見て、「あれはケヤキだな」と思ったら、違う木の場合もあります。よく間違えられるのが、ムクノキとエノキです。身近な低地でよく見られ、樹形も葉もよく似ているので、これら3種はワンセットに覚えておくとよいでしょう。
| ケヤキ | ムクノキ | エノキ | |
| 樹形 | ![]() 特に整った扇形 | ![]() ケヤキよりやや粗い扇形 | ![]() ケヤキよりやや横広の扇形~円形 |
| 樹皮 | ![]() 若木は灰色で平滑、やや横長の皮目が点在。老木は鱗状にはがれ、はがれる。 | ![]() 若木は白っぽく縦すじが入る。老木は縦にやや裂けてややはがれる。 | ![]() 樹皮ははがれず、裂け目はなく、砂状にざらつく。 |
| 葉 | ![]() 鋸歯(ギザギザ)はカーブする。基部の側脈は短く目立たない。 | ![]() 鋸歯は角張る。基部の側脈はやや長く、外側にさらに分岐する。 | ![]() 葉の先半分にやや鈍い鋸歯がある。基部の側脈は長く伸び、3脈が目立つ |
ケヤキは、ニレ科の落葉高木で、本州〜九州の冷温帯から暖温帯まで分布します。ムクノキとエノキも、かつては同じニレ科に分類されていたため、俗に「ニレ科3兄弟」とも呼ばれることもありました。しかし、2010年代から広まったDNA解析によるAPG分類体系によって、ムクノキとエノキは新たに設立されたアサ科に移され、ケヤキと別の科になってしまいました。とはいえ、ニレ科とアサ科はごく近縁なグループで、近い仲間であることに違いはありません。ここでは、樹形、樹皮、葉による3種の違いを紹介しましょう。
エノキは、ケヤキやムクノキに比べると、地面に近い位置で枝が分岐し、横に広がる傾向が強くありますが、樹形だけで遠くから3種を正確に見分けるのは困難です。ただ、樹皮を確認すればたいていは見分けられます。ケヤキは、ところどころ鱗状にはがれ、独特のまだら模様に見えることが特徴で、見慣れると樹皮だけですぐケヤキと分かります。一方のムクノキは、樹皮が白っぽく、縦すじが入る点で見分けられ、根が板状になってせり出しやすい傾向もあります。
ただし、幹の直径が1mにも達するような大木では、両種とも樹皮全体が著しくはがれて、見分けにくくなります。そのような個体では、上部の細い幹を確認するか、葉を確認することが重要です。
対するエノキは、大木になっても樹皮が平滑で、裂けたりはがれたりしません。また、枝が落ちた痕(枝痕)に横すじができやすく、特に細い幹や横枝で、ほぼ等間隔に横すじが入って見えることも特徴です。
形や樹皮は、環境や樹齢による変異や個体差が大きいので、最終的には葉を確認して見分けることが大切です。図表のように、鋸歯の形や葉脈の配列で、3種は明瞭に区別できます。ただし、葉の形も幼木と成木、日なたの葉と日陰の葉などで、葉の大きさや光沢感、厚さなどに変異が生じるので、1枚の葉や個体にこだわらず、様々な葉や個体を確認することが大切です。
果実があれば、3種はより見分けやすくなります。ケヤキの果実は、3mm程度で茶色くて硬く、地味で目立ちません。小型化した数枚の葉と一緒に落果することで、風に飛ばされる構造になっています。ムクノキの果実は、黒紫色で径1cmぐらいでシワが入り、干し柿の味がして食べることもできます。エノキの果実は、橙〜赤色で径5mm前後、こちらも干し柿の味がして食べることもできます。ケヤキの種子は風で散布されるのに対し、ムクノキとエノキが主に鳥によって散布されるので、道端や公園、庭先など、あちこちで幼木が生えている様子をよく見かけます。特にエノキは、明るく開けた環境を好み、鳥も果実をよく好むようで、身近な道端に生えてくる木の代表種といえるでしょう。
エノキが自生する典型的な環境の一つが、河原です。神奈川県内の低地の河原や河川敷でも、草原の中に丸い樹形のエノキの若木が単木的に生えた様子がよく観察できます。緩やかな平野部の河原に成立した林(河畔林)では、ムクノキもよく交じって生え、植生学ではエノキ・ムクノキ群集とも呼ばれます。ヤマグワやヌルデ、イボタノキなどもよく交じります。関東〜九州の平野部の河原には、このエノキ・ムクノキ群集が多く見られるのです。ただし、暗い樹林になると両種とも生えなくなるので、明るい環境で育つ陽樹といえます。
一方、ケヤキが自生する典型的な環境は、谷沿いの林です。標高500m以下ぐらいの暖かい低山では、イロハモミジやムラサキシキブなどとよく交じって生え、標高1000m前後の冷涼な山地では、サワグルミやチドリノキ、フサザクラなどと交じって林(渓畔林)を形成します。ケヤキは、意外にも海岸林の斜面に生えることもあり、かなり多様な林に生えます。明るい環境に単木的に生えることはほとんどなく、樹林の中で育つので、陰樹といえます。
3種とも高木になりますが、特にケヤキは落葉広葉樹の中でも有数の大木になる木で、幹の直径は1m以上、樹高30mにも達し、全国の神社などに見事な大木があります。ケヤキの木材は、赤茶色が強くて木目がはっきりしており、テーブル、お椀などの家具や器具に昔からよく使われる屈指の有用材なので、広葉樹の中ではクヌギ(しいたけのほだ木や木炭が主な用途)と並んで植林されることも多い木です。
それに対してエノキやムクノキは、大木にはなりますが幹が直径1mを超えるものは珍しく、樹高もケヤキに比べると低めです。木材の有用性も低く、林業や木工の分野で登場することは稀で、もっぱら勝手に生える雑木のような印象です。また、エノキもムクノキも冷温帯には分布せず、寒地や北日本では見られせん。寒地では、エノキとムクノキの葉の中間形をしたエゾエノキに置き換わります。
いずれにせよ、ケヤキ、エノキ、ムクノキは、神奈川県では市街地から里山まで身近に見られる木の代表種なので、自然と親しむ人にはしっかり覚えてほしい“ニレ・アサ科の3従兄弟”です。
プロフィール

林 将之(はやしまさゆき)
樹木図鑑作家。 山口県田布施町生まれ。このきなんのき研究所所長。千葉大学園芸学部卒業。 新著「山渓ハンディ図鑑 樹木の葉」山と渓谷社 2025/9発行








