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かながわのナショナル・トラスト運動の歴史と将来展望①

(機関誌ミドリ136号2025)

かながわのナショナル・トラスト運動の歴史と将来展望①

公益財団法人かながわトラストみどり財団理事長 引地孝一

はじめに

神奈川の自然環境と歴史的環境を守るための、トラストみどり財団は2025年6月に創立40周年を迎えます。

40年の歩みを続けることができましたのは、神奈川県、市町村、団体・法人、会員、ボランティアなど多くの関係者の理解と協力があったことと、深く感謝しております。

そこで、40周年を記念して時代の流れや、ナショナル・トラスト運動の歴史を振り返りながら、今後の財団の事業展開を会員の皆さん、役員や職員、団体・企業・県民・ボランティアの皆さんと共に考え、将来を展望したいと思い、このテーマを選びました。今回号から計3号に分けて掲載させていただきます。

1今の時代をどう見るか

2025年に、日本は戦後80年を迎えます。

21世紀が幕開けして25年目ですが、日本はどのような姿になっていくのか不透明です。確実な事は日本の高齢・少子化が進むことです。現在、日本の65歳以上の高齢者は3625万人(2024年9月)、総人口の29.3%を占めています。2025年問題として団塊の世代の介護問題で人材不足が大きな問題となっています。

また、地方分権改革がこの25年の間に進み、2001年に3300あった市町村も現在1718市町村(2024年12月)です。

地方自治の流れを象徴する言葉として「地方の時代」があります。この言葉が注目されたのは1978年です。当時、革新県政の旗手として活躍していた神奈川県の長洲一二知事が言われた言葉です。

長洲知事は地方の存在感を高める視点から、様々な課題に取り組む姿勢として「巨大都市問題、環境、資源、エネルギー、食料問題等々」の先進工業社会が直面する難問は、自治体レベルで解決するには大きすぎる問題にみえるが、どれ一つとして、自治体抜きに解くことはできない。そのためには「革新自治体から自治体革新が必要だ」と訴えました。長洲知事は、もう一つ、職員に神奈川は日本の縮図だ、地方の問題と日本の問題と世界の問題が折り重なっている。「神奈川が変われば日本が変わる」と言われました。

これまで、日本社会は官と民間を中心に営まれてきましたが、これからはNPOやボランティアが大きな役割を果たすことになります。欧米の先進国を見ても、例えばアメリカのNPOは130万法人を越え、従事者は700万人、そのNPOを支えるボランティアが500万人、使う予算も75兆円と言われます。

アメリカではNPOやボランティアがきちっと根づき、行政との間で協働が一つのシステムとして成り立っています。日本は戦後の混乱から立ち上がるため、国の省庁中心による「中央集権主義」で復活し成長しましたが、今後は三つの時代の流れがあると感じています。

一つは「地方の時代から地域の時代」という流れです。地方の時代は中央に対しての地方であり、顔が地方を向いてきたら、次は将来を見通した大きさの地域を大切にして、きめ細かな行政需要や課題を整理し、改革を行い市民の期待に応えることが求められます。

 二つには「横並びの時代から評価の時代」です。金融業界や産業界も財務省や経済産業省の通達行政で守られた、横並びの時代から、個別に生き残る戦略を立てる評価の時代になっています。

昭和60年10月16日設立記念式典を開催。ロゴマークの発表やトラスト会員の募集が始まった。

昭和60年10月16日設立記念式典を開催。ロゴマークの発表やトラスト会員の募集が始まった。

昭和60年10月16日設立記念式典を開催。ロゴマークの発表やトラスト会員の募集が始まった。

昭和60年10月16日設立記念式典を開催。ロゴマークの発表やトラスト会員の募集が始まった。

昭和61年10月12日かながわのナショナル・トラスト制度の発足を記念して野外フェスティバルを開催(場所:大井町旧いこいの村あしがら)

昭和61年10月12日かながわのナショナル・トラスト制度の発足を記念して野外フェスティバルを開催(場所:大井町旧いこいの村あしがら)

設立当初、各地域ごとに植樹会を開催

設立当初、各地域ごとに植樹会を開催

日本は戦後、横並び主義で発展しましたが、バブルの崩壊、リーマンショックなどを経験し、企業が生き残るには、横並びではだめだということを体験しました。今後、自治体・企業も個性を生かした評価が求められています。そのために、他と違う「オリジナリティや付加価値」をつけることが大事です。

三つには「行政の時代から共生の時代」です。公の仕事をすべて行政が行う時代から、民との間でパートナーシップを組み、民との協働を進めることが、大切です。そのために行政は課題解決に向け、様々な分野で活躍している市民活動と連携、協力し、行政という殻から脱皮し、行政のもつ本来の良さと民の柔軟さが加わり、1プラス1が2でなく相乗効果が出ることを目指すべきです。

2ナショナル・トラスト運動の歴史

ナショナル・トラスト運動はイギリスが発祥の地で、1895年に3人の市民による話し合いから始まりました。この運動は「都市化や開発の波からすぐれた自然や歴史的環境を守るため、広く国民に基金を呼びかけ、買取り、あるいは寄贈を受け保護し、維持、公開する活動」として、ナショナルは「国家の」という意味ではなく、「国民の」という意味で、トラストは「信頼」を表しています。活動方針も「一人の人が1万ポンド寄付するよりは、1万人の人が1ポンドずつを」モットーにした、草の根的な活動が特色です。1907年にナショナル・トラスト法を制定し、資産の「譲渡不能・永久保存」特権の保障や、寄付者へ税の減免を認めるなど支援しています。ナショナル・トラストは独自のショップも開設し、国民が気軽に利用しています。保有資産も約25万ha以上の森林、農地や海岸線を有し、500以上の歴史的建造物や庭園、遺構などと多彩です。

ナショナル・トラストも順調に会員を増やせた訳ではありません。飛躍的に増えたのは、1965年に「ネプチューン計画(海岸保全計画)」を掲げてからです。この計画により1255㎞の海岸線が保全されています。イギリスは島国で「海岸を保全する」というキャッチフレーズが国民に受け入れられ会員を増やしたことは間違いありません。現在、会員540万人(2021年)です。この60年で300万人以上の会員が増えています。

成長の森事業成長の森は平成19年から開始、現在は植樹を県立21世紀の森で行っている

成長の森事業 成長の森は平成19年から開始、現在は植樹を県立21世紀の森で行っている

かながわ緑の大使事業かながわ緑の大使は令和2年より始まり、令和3年は8名による活動

かながわ緑の大使事業 かながわ緑の大使は令和2年より始まり、令和3年は8名による活動

日本のナショナル・トラストの活動は、1964年に鎌倉鶴岡八幡宮の裏山の御谷(おやつ)で宅地開発が行われようとしたことを防いだのが始まりといわれています。

鎌倉市民が「財団法人鎌倉風致保存会」を組織し、募金を集めて開発予定地の一部1、5haを買上げ保全しました。その後全国各地で様々な活動が展開されています。

また、1983年には「ナショナル・トラストを進める全国の会」というネットワークが組織され、1992年社団法人日本ナショナル・トラスト協会に発展していきました。現在、全国のナショナル・トラストの活動団体は50団体とされ、各団体が保有している土地を合わせると180haになります。

実はもう一つ、ナショナル・トラスト運動を全国で展開している団体があります。公益財団法人日本ナショナルトラスト(JNT)です。この組織は1968年に文化・自然遺産を地域の文化的向上と地域振興に貢献することを目的に「財団法人観光資源保護財団」として設立されました。1992年に財団化し、その後2012年に公益財団法人化しています。

神奈川県では自然環境と歴史的環境の保全を主たる目的として当財団が1985年に発足し、現在会員が9371人(2024年12月)、緑地保全5緑地27haとなっています。この他、買入れが32ha、寄贈が34haです。

最初3000人で始まった会員も、2005年頃に累計総数として4万人をこえましたが、現在は退会制度の変更などで1万人程度です。

一方、団体・法人会員は確実に広がり、当初14会員だったのが、1990年100会員、2019年267会員、2024年には354会員となり、財団を幅広く支えていただき、心強く思っています。さらに、財団の活動に理解を示し、協賛していただいている優待施設は2005年に21だったものが、着実に増加し2024年約40施設と広がりを見せています。

運動の資金的支えとして1986年に創設された神奈川県の「かながわトラストみどり基金」も67億8千万です。(2023年度末)これまで買取りのため、取崩した金額は51億円です(2023年度末)。当財団の最初の緑地保全契約は秦野市の葛葉緑地です。その後,久田(大和市)、泉の森(大和市)、片瀬・川名(藤沢市)、大崎(逗子市)と続くなど、緑地保全契約や買上げによる保全は着実に進展しています。中でも注目されるのは、三浦半島の小網代の森の保全活動です。小網代の森は70haと大規模な緑地です。

小網代の森は神奈川県、三浦市、NPO法人小網代野外活動調整会議、京浜急行電鉄株式会社や多くのボランティアの皆さんに支えられ保全・管理・活用が図られています。2025年2月には「小網代の森開園10周年記念シンポジウム」が神奈川県・三浦市・当財団共催により開催されるなど、活発な活動が続いています。

プロフィール

引地 孝ー

引地 孝ー(ひきちたかいち)
横浜生まれ。青山学院大学文学部教育学科卒業。神奈川県に就職後、様々な部局を経験。福祉部長、県教育委員会教育長を務めた。県退職後は神奈川県信用保証協会会長、YRP常勤監査役などを務め、現在、社会福祉法人城山学園常務理事。

 

連載

かながわのナショナル・トラスト運動の歴史と将来展望①
かながわのナショナル・トラスト運動の歴史と将来展望②
かながわのナショナル・トラスト運動の歴史と将来展望③

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