
(機関誌ミドリ132号2024)
虫とりの日常⑤「冬来たりなば春とおからじ、ですね!」
冬の間は地図を見ながら、今年こそ春になったらあそこに行くんだ、という妄想のような計画をたてたり、書き初めのかわりに、どこでどんな虫を採りたいか絵に描いたりする。
虫たちも卵や蛹の姿でじっと冬をやりすごすけれど、なかには成虫の姿のままで冬を越すものもいる。そういう虫は冬眠にちょうど良さそうなところを掘れば見つけやすい。
とはいえ、冬眠に憧れている僕としては春を待ちながら寝ている虫をねらうのは申し訳ない気持ちが勝ってしまい、なかなかできない。
冬は1年の中で準備の季節だ。 仕事をしていると、多くの時間が準備に費やされることがある。
若い頃、旅館で働いていた時に板前さんの仕込みの量と丁寧さを見ていてそれを痛感した。今でもそれが僕の仕事の背骨になっている。
そう考えると、寝るのも立派な準備なので、よく寝ることは良く生きることだな、と思う。
虫や木や草が冬の間に充分に準備をしたら、文字通り「あとは野となれ山となれ」だ。
プロフィール
横山 寛多
絵本作家、イラストレーター
連載(2023)
虫とりの日常①「春だ」
虫とりの日常②「起きたら春がいい」
虫とりの日常③「夏といえば虫とりですね」
虫とりの日常④「セセリチョウがとびはじめて秋がはじまります」
虫とりの日常⑤「冬来たりなば春とおからじ、ですね!」