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かながわのナショナル・トラスト運動の歴史と将来展望②

(機関誌ミドリ137号2025)

かながわのナショナル・トラスト運動の歴史と将来展望②

3神奈川の自然は日本にとってかけがえのないもの

公益財団法人かながわトラストみどり財団理事長 引地孝一

本県は箱根・丹沢の緑や相模湾に代表される自然海岸が残るなど、全国屈指の県です。2005年に本県が将来の姿を展望した「神奈川力構想」を提唱しました。神奈川は、開港、開国以来、日本の近代化をリードした先進性と優れた技術力から、「神奈川力」としました。

私のいう「神奈川力」は、都道府県の比較で考えました。色々な分野を数値化すると、全国の都道府県数は47ですので、約2%あれば平均ですが、本県は様々な数値が6%を超えています。

例えば、学生数は18万人(6.6%)。さらに、生徒数は小学校45万人(7.3%)、中学校22万人(6.9%)です。他では、映画館のスクリーン数は221(6.1%)。NPO法人3514(7.0%)です。

神奈川の緑の保全の歴史

本県は高度経済成長時代に人口が急増し、1980年代は700万人でしたが、現在は922万人です。

それに、比例するように、緑地面積は1972年の県土面積に対する、農地と森林を合わせた割合は54.0%から減少を続け、2016年47.3%に減少しています。この結果、森林の保水率も下がり、気候変動による影響もあり、水害等のリスクも高まっています。一方、森林を開発して広い土地を使用するゴルフ場は、高度経済成長期に数多く設置されました。現在、全国のゴルフ場は2123(2024年)ですが、本県は51、全国比でいえば2.4%です。これも偶然ではなく、県が開発による緑の減少を防ぐための「新規ゴルフ場開発禁止」(1972年)により、森林の保全が図られました。

もう一つ、緑の保全例として、相模湾沿いの国道134号線の整備と自然保護があります。1980年代当時、道路整備と松林の伐採というトレードオフ問題を抱えていました。そこで県は湘南なぎさプラン(1980年)を策定し、対応しました。問題解決のため「松を一本切ったら、二本植える」発想で、「県民1万人10万本植樹」など県民参加による施策を行いました。余談ですが、自然を大切にする姿は本県だけでなく、古くは江戸時代肥前佐賀の唐津藩で行われました。唐津市の「虹の松原」は、約150万本の松が2里(8キロ)にわたって続くため2里の松原とも呼ばれ、三保の松原、天の橋立と共に日本の3大松原です。当時の藩主は北部の海に面する松原を砂防林として育成するため、「松を一本切ったら、その者の腕を切る。」と言う厳しい政策で守りました。私達も、先人の努力を生かす工夫をして、ナショナル・トラスト運動や森林の保全活動を息の長い活動として推進していくことが大切です。

トラスト緑地・長者ヶ崎緑地

トラスト緑地・長者ヶ崎緑地

全国の自然海岸の現状

 もう一つ、神奈川が誇れるものとして、自然海岸が多く残っていることです。1985年から1987年までNHKが「ぐるっと海道3万キロ」という番組を作りました。正確には日本の海岸線は3万3千キロです。ここ40~50年の海岸線変化では、1960年代以降日本各地の砂浜海岸で汀線が後退しました。そこで、各地の海岸で侵食防止工事が行われ、1970年以降日本の海岸線は人工的な工作による影響を受けました。1996年環境庁の調査では全国の自然海岸は52%です。過去では1978年59%、1984年57%、1993年55%にすぎず、残りは人口改変された海岸線です。東京、伊勢、大阪、有明などの内湾や瀬戸内海の各地で砂浜や海岸線が次々と姿を消しました。本県でも、県の中央を流れる相模川河口の柳島地区は1988年から17年間で60mの海岸線が後退しました。そのほかでも平塚、小田原、横須賀などで、海岸線の後退は激しいです。2007年には台風で、西湘バイパスの一部が崩落する被害も生じました。

相模湾は全長190キロの海岸線ですが、約7割が自然海岸として保全されています。これは、先人たちの工夫によるものです。自然海岸を守るため「相模湾等における公有水面埋め立ての抑制(1971年)」により砂浜は保全されました。当時、日本は日本列島改造計画が主要政策で、全国で自然海岸が開発され、砂浜が減少しました。この姿を見て、当時、本県の津田文吾知事は、自分の故郷、富山が変わっていく姿に、大きな危機感を抱きました。神奈川の知事ですから、富山のことは何もできませんので、せめて神奈川の自然は守ろうと、議会に諮り、相模湾の埋め立てを禁止しました。

その後、東京、愛知、大阪、兵庫で海岸線の埋め立てが進み、3大都市圏の人口密集地での自然海岸はほとんどありません。 日本には「浜辺の歌」や「春の小川」という自然を素材にした歌があります。これらの自然を歌の世界だけでなく、後世に残していく責務があります。

プロフィール

引地 孝ー

引地 孝ー(ひきちたかいち)
横浜生まれ。青山学院大学文学部教育学科卒業。神奈川県に就職後、様々な部局を経験。福祉部長、県教育委員会教育長を務めた。県退職後は神奈川県信用保証協会会長、YRP常勤監査役などを務め、現在、社会福祉法人城山学園常務理事。

 

連載

かながわのナショナル・トラスト運動の歴史と将来展望①
かながわのナショナル・トラスト運動の歴史と将来展望②
かながわのナショナル・トラスト運動の歴史と将来展望③

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