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神奈川で見られるコウモリ

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(機関誌ミドリ129号2023)

神奈川で見られるコウモリ

神奈川県立生命の星・地球博物館外来研究員 山口 喜盛

音もなく暗闇を飛び回り、吸血鬼の手下や墓地のイメージもあって誤解も多いですが、 この不思議で魅力あふれる生きものについて紹介します。

①コウモリはどんな動物か

コウモリは哺乳類の中で唯一空を飛ぶことができるので、どこにでも自由に飛んで行くことができます。食虫性のコウモリはその特性を生かし、様々なところに行って空中で昆虫を捕らえます。食べる量は一晩に体重の三分の一から三分の二くらいになるため、自然界において重要な役目を果たしていると考えられています。昆虫が少なくなる冬は体温を外気近くまで下げ眠って過ごしますが、活動期でも昼間休むときは体温を下げています。このように体温を下げるのはエネルギーの消費を少なくするためです。

コウモリには独特の顔を持っている種が多くいます。キクガシラコウモリ類は鼻葉と呼ばれる複雑な器官を顔に持ち(写真1)、ニホンウサギコウモリは特大な耳を持っています(写真2)。チチブコウモリにおいては何とも言えない奇妙な顔をしています(写真3)。この特徴のある顔は暗闇で生活していく上で重要な役割を担っています。口または鼻から超音波(人の耳に聞こえない高い音)を発し、その反響音を耳でとらえ物体の存在や距離を認識しています。これをエコーロケーション(反響定位)といいます。これによって真っ暗闇でも自由に飛ぶことができ、餌である昆虫を見つけて捕らえることができるのです。他にも逆さまにぶら下がる、巧みな飛行能力、体の構造(皮膜や骨の作りなど)、繁殖生態など、コウモリには他の動物とは違う様々な特異性があります。

写真2ニホンウサギコウモリ

写真2ニホンウサギコウモリ

写真3チチブコウモリ

写真3チチブコウモリ

②どんなコウモリがいるか

コウモリは種類が多く国内で39種(研究者よって分類が異なる)が知られています。神奈川県内ではこれまでに13種を確認していますが(表1)、生息状況はまだよくわかっていません。夜の空中を飛び回っているコウモリの確認は難しく、各地での調査がまだ不十分だからです。研究者や観察者が少ないのも理由のひとつでしょう。また、渡りをするコウモリもいるため、移動中の種や迷コウモリが偶然見つかる可能性もあります。今後、調査が進めばあと2~3種くらいは増えるかもしれません。

神奈川県には鍾乳洞のような自然にできた穴はほとんどなく、自然林や樹洞のできる大木も少ないことから、洞穴や樹洞を利用するコウモリは少ないようです。実際、他県では普通に生息しているキクガシラコウモリは神奈川県では珍しく、チチブコウモリやニホンウサギコウモリ、モリアブラコウモリなど森林性コウモリもなかなか確認できません。

広範囲を飛ぶヒナコウモリやヤマコウモリ、ユビナガコウモリなどは山地から平野にかけて広く生息していますが、オヒキコウモリは山間部や海岸近くで数例見つかっている程度です。

隣県では高標高地に生息しているヒメホオヒゲコウモリやカグヤコウモリが、神奈川県ではまだ確認されていません。今後、丹沢のブナ林で見つかるかもしれません。

キクガシラコウモリ(写真1)
丹沢山地と県北部で少数が生息
コキクガシラコウモリ
県西部から北部にかけて広く生息
ヤマコウモリ(写真4・5)
平野部から丘陵に生息
ヒナコウモリ
平野部から山地にかけて広く生息
モリアブラコウモリ
箱根山地で1例、足柄山地で1例の記録がある
アブラコウモリ
市街地に普通に生息
チチブコウモリ(写真3)
西丹沢で1例だけ記録がある
ニホンウサギコウモリ(写真2)
北丹沢で1例だけ記録がある
モモジロコウモリ
県西部、北部、三浦半島の山間の河川や湖周辺に普通に生息
ユビナガコウモリ
県西部、北部、三浦半島に広く生息
テングコウモリ
箱根山地と丹沢山地に生息するが少ない
コテングコウモリ
箱根山地から丹沢山地、県北に広く生息
オヒキコウモリ
県西部で数例の記録がある

③コウモリが棲んでいるところ

コウモリは夜行性なので昼間は人目に触れないところに潜んでいます。コウモリのねぐらというと洞穴を思い浮かべる人が多いと思いますが、他にも家屋の屋根や壁の隙間、コンクリート構造物や岩場の隙間、樹洞、樹皮下、枯れ葉の中など様々なところを利用しています。

身近で普通に見られるのはアブラコウモリ(イエコウモリとも言う)です。自然豊かな森林よりも市街地や農耕地周辺を好んで生活し、家屋やコンクリート建造物などの隙間を昼間のねぐらにしています。薄暗くなると駐車場や公園、畑など開けたところを飛んでいるので、多くの人の目に留まっていると思います。

他のほとんどのコウモリは山地や森林に棲んでいるため、なかなか出会うことはありませんが、飛翔力があり行動範囲の広いヒナコウモリとヤマコウモリは市街地でも見られます。ヒナコウモリはアブラコウモリと同じようなところをねぐらに利用しますが、ヤマコウモリは神社の大木の洞を昼間のねぐらにしています(写真4)。そして日が暮れると川や農耕地、丘陵地など開けたところの上空を飛び回っています(写真5)。キクガシラコウモリ類やテングコウモリ類、ニホンウサギコウモリなどは森林性なので茂った森林内を巧みに飛び回り餌を探しています。チチブコウモリの生息環境はよくわかっていませんが、自然の豊かな丹沢の奥地に棲んでいると思います。オヒキコウモリは岩場やコンクリート建造物の隙間をねぐらにしますが、飛翔力と移動能力がとても高いため、あらゆるところに出現する可能性があります。

相模湾や三浦半島沿岸域には防空壕などの軍事施設が多いことから洞穴をねぐらにするキクガシラコウモリ類やユビナガコウモリなどが利用している可能性があります。モモジロコウモリは水辺を好むため山間の河川や湖、ため池周辺に棲み、水面上を飛び回っています。芦ノ湖や丹沢湖、宮ヶ瀬湖周辺などでよく見られ、昼間は山を掘り抜いた用水路や隧道などに潜んでいます。  コウモリが生きていくためには食べ物の昆虫が多いことは当然ですが、昼間安心して休めるねぐらも重要です。

写真4樹洞から出てきたヤマコウモリ

写真4樹洞から出てきたヤマコウモリ

写真5夕方の酒匂川上空を飛ぶヤマコウモリ

写真5夕方の酒匂川上空を飛ぶヤマコウモリ

④コウモリを探してみよう

コウモリは日が沈んで暗くなるとねぐらを飛び出し、空や森の周辺を飛び回ります。では、このコウモリたちを観察するにはどうすればよいのでしょうか。

まず川や農耕地に行ってみましょう。住宅地を流れる狭い川でも大きな川でもどちらでも大丈夫です。このようなところで見られるコウモリは、真っ暗になる前にねぐらから飛び出すため、探すのは難しいことではありません。

飛んでいるコウモリを見つけることができたら体の大きさと飛んでいる高さ、飛び方に注意してみましょう。小さなアブラコウモリ(翼を広げると20㎝程)はヒラヒラと飛びながら地上3~15m程度の高さを行ったり来たりしていますが、大型のヤマコウモリ(翼を広げると40㎝程)やそれよりやや小さいヒナコウモリは主に50m以上の高空を直線的に飛んでいます。高空を飛ぶコウモリは一見、鳥のように見えますが、昆虫を捕るときに急降下や急旋回するなど不規則な飛び方をするので区別できると思います。このように目視観察をするためには、日没から真っ暗になるまでの短時間が勝負です。

コウモリは、飛んでいるときはエコーロケーションを行っているため常に鳴き続けています。ほとんどのコウモリは高い音を出しているため私たちの耳で聞くことは困難ですが、バットディテクター(超音波を人の耳に聞こえる音に変換してくれる機器)があれば真っ暗闇を飛び回るコウモリの存在を知ることができます。

実はコウモリの声はまったく聞くことができないわけではありません。ヒナコウモリは晩秋になると上空高いところで「チュン チュン・・・」とリズムのある声で鳴き、オヒキコウモリは低めの音を発するので「チッ チッ」と耳に聞こえます。これらのコウモリの可聴音を聞くには、静かな山間や湖などに行ってみるとよいでしょう。アブラコウモリはコミュニケーションに可聴域の音を発することが知られています。

神社には樹洞のある大木があるので、夕方、穴から出てくるヤマコウモリを探してみましょう。集団で冬眠するため、数十頭から100頭近いヤマコウモリが出てくる可能性があります。神奈川県では冬眠から覚める3月末から4月中頃までが観察しやすいです(夏期のねぐらはまだ確認されていない)。

⑤コウモリ情報募集

神奈川県に生息するコウモリの分布や生態などは、まだよくわかっていません。防空壕や廃坑など洞穴にコウモリが棲んでいる、大木の樹洞からコウモリが出てきたなど、目撃情報がありましたら教えていただけるとありがたいです。(連絡先agnomom@gmail.com)

プロフィール

山口 喜盛(やまぐちよしもり)
県立生命の星・地球博物館外来研究員、神奈川県自然保護協会生物多様性保全委員 コウモリ類を中心に県内の哺乳類を調べている。

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