かながわトラスト緑地・ヤマユリ自生地再生チャレンジ事業
ヤマユリは神奈川県の県花として県民に愛され、その容姿の美しさが讃えられるほど、緑地を彩るシンボル的な存在です。ヤマユリが咲き誇るトラスト緑地を目指し、種の育苗や自生地環境の改善に取り組んでいます。
2017年からスタート
財団に会員の方から一通のお手紙をいただきました。そこには、2016年7月に起きた「津久井やまゆり園」での大変痛ましい事件のこと、ご自身のお子様も障害者で、施設に預けることへの葛藤と不安、そして事件のトピックスとして “ヤマユリ”という文字がニュース記事に出てくるたびに重い悲しみを感じること。そしてその昔の野辺には、各所でヤマユリが咲き続け人々を楽しませていたことを思い出し、ヤマユリが咲く里山の情景を復活してもらえないかという内容でした。
ヤマユリの自生地再生の取り組み
ヤマユリは緑地を彩るシンボル的な植物です。ですが財団で保全する県内のトラスト緑地で調査したところ、数か所で見られるだけの結果でした。
そこで財団が取り組める事業として、トラスト緑地でのヤマユリの自生地を再生する取り組みを開始しました。
活動の内容としては、林床の環境を整える草刈等を実施するほか、緑地でヤマユリの球根や種を採取し、平塚市の社会福祉法人進和学園へ栽培、育成を依頼し、増えた球根を緑地に戻す事業を展開し、自生地を再生します。
昔、里山で見られたヤマユリが咲き誇る風景を復活させ、多くの人々の心を癒し、地域社会の憩いの場所として、また、誰もが共に暮らせる社会の創造につながるような場所として再生していければと考えております。
ヤマユリは宿根草といって数年育成して開花が見られる植物のため、自生地再生は大変時間がかかる事業ですので、持続的に取り組みながら、随時ご報告していきます。
◆タネから育てる
タネから育てると開花までに5~6年かかりますが、病気になりにくい球根を育てることができます。採取したタネは約1年間土中や保管庫に保存し、翌年秋に発根したタネをプランター等に播種します。それから冬を越して、春先にようやく発芽となります。
緑地内で観察できた朔(さく)です。大輪の花が咲き終え、膨らみが出たところです。この中に、大量のタネが内包されています。
採取した球根(左)と木子(右)。木子(きこ)は球根から地上部に伸びる茎の間の地中にできる小球根です。
秋頃に掘り出した球根のりん片を剥がし、プランター播きや適地に直播きします。タネ同様に春先に発芽し、3~4年で開花しますが、やはり時間をかけての育成となります。
2017年に進和学園へ球根やタネを提供。育成の協力をいただき、成長した球根を緑地へ戻し、自生地再生を目指します。
進和学園内の園地で球根とタネの育成の協力をお願いしています。地植えとプランター育成により少しずつタネから木子、球根へと成長しています。
神奈川県内にあるトラスト緑地数か所で職員の目視による調査やボランティアや近隣の方への聞き込みをしたところ、見られない場所も多く、あったとしても1~2株が所々に咲いているという状況でした。
※そのため数少ない種であるため、植生地や再生場所はご紹介できませんのでご了承ください。
◆自生地環境の再生
ヤマユリは風通しが良く湿り気の少ない半日陰の樹林地を好むようです。調査では藪や樹木に覆われた森の深部にはほとんど見られず、林縁部や散策路などの開けた草地で多く確認できました。
また、林床に日が入る場所ながら、笹や低木などが大きく伸長し繁茂しないよう定期的な草刈りが行われている場所が自生地として適しているようです。
このほかイノシシなどの食害被害もあるため、住宅地に囲まれた樹林地を対象として、計画的な草刈り等の維持管理を行っていく予定です。
お手紙
かながわトラストみどり財団様 2016年8月1日
梅雨の明けたような、まだ明けないような 昨今でございます。
私の娘は重度のダウン症で、今年3月より大磯町の施設に入所しました。娘は45才で歩くのが早く元気で、主人が亡き今、2人で生活してきましたが、80才の私がついて行けなくなり入所をお願いしました。
娘は言語理解が困難でどう説明したらよいかわからないまま、施設に入所させました。5月の連休で一時帰宅後、施設の前で騒動してしまい、前から知っている同室のお友達の名前「〇〇ちゃんが待っているよ」と言ったら、クルリと後へ向き、私の手を離し、施設へもどってくれました。
そんな有様に私も時々、涙を流していましたが、2016年7月26日の事件以来、ラジオ、テレビ、新聞等見聞きする度、涙が止まりません。
42年ほど前、神奈川県へ越してきて、小さい娘を連れて児童相談書や福祉事務所などで相談を受けるところで「津久井やまゆり園」や、「ヤマユリ」が県の花であることを知りました。
越してきた我が家は、神奈川県園芸試験場の隣で小高い森の崖にヤマユリが咲き、毎年楽しみにしていたのに、今は見つかりません。
近くの神社の斜面地にも3~4本ありましたが、今年は半分になっていました。
私の希望なのですが、このたびの悲劇を悼み、ヤマユリの花を各町で絶滅させないように、保護する場所を作っていただけないでしょうか?
弱い立場の人達も、仲間として受け入れる寛容な心を育てる場所となればと願います。この人達もそれぞれの人の能力で一生懸命いきているのですから。
皆様のご活躍、お祈り申し上げます。
(※お手紙の内容を割愛したものを掲載しました。)
緑地保全の指標となるヤマユリ
ヤマユリは緑地の林床植生の中でも、一際目立ち、多くの人々に好まれる植物です。また、ヤマユリの自生地は林床に光が入る草地であり、ヤマユリ以外にも多種多様な草木の種類が見られ、それぞれに生息する生物とそれを捕食する生物が共生するため、生物多様性の高い自然環境といえます。この「かなユリ・チャレンジ」を機会に都市近郊にあるトラスト緑地の新たな価値の創造につながるよう事業を計画していきます。
「ヤマユリ」絵/大竹 正芳
「かなユリ・チャレンジ」の主旨に賛同いただき日本画家の大竹先生にヤマユリを描いていただきました。