機関誌「ミドリ」について


2017ミドリ107号「葛葉緑地で地質学にふれる」その3

ミドリ107号
2017年冬号


ミドリ107号

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(4)関東ローム層

写真4:葛葉川の河原のレキ③付近  写真5:葛葉緑地の関東ローム層の拡大写真

 関東ローム層は、火山灰に黄砂などの風塵が加わったものを母材として、風化作用や生物の作用がはたらいてできた土(土壌)が長い年月かけて堆積してできた地層です。 堆積速度は火山活動の影響もありますが1万年で1m程度です。 土は雨が降ると流され、乾燥して風が吹くと飛ばされてしまいます。 土が積もるためには、地表が緑に覆われる必要があります。 つまり関東ローム層は、緑の中でできた地層なのです。 関東ローム層が今後も堆積していくには、緑の保全が必要になります。
 現実生活との関わりは見えにくいのですが、緑が失われると土砂が流出するという話は聞いたことがあると思います。 緑が保たれると、その土地は1万年で1m程度の速度で高くなっていきます。広い意味で国土が増えるわけです。 緑の中で堆積した関東ローム層でも、木の化石が見つからないのはなぜでしょうか。 答えは堆積速度にあります。 直径1㎝の小枝が埋もれるのにも計算上100年程の歳月が必要で、その間に木は朽ち果ててしまうからです。
 
(5)軽石層
 関東ローム層には様々な色の粒が見えます(写真5)。 これらは軽石やスコリアなどの火山噴出物です。 大きな噴火では軽石やスコリアは明瞭な層を成して堆積します(写真6)。 秦野付近の関東ローム層にはこのような層が約45万年間に200枚以上あります。 これらは主に箱根火山と富士火山の大噴火の痕跡ですが、富士火山の活動は約10万年前から始まったので、ほとんどは箱根起源です。
 これらは記号を付けて整理されています。 図3の①ではKlp-13~15,Kmp-1~12,Pm-1の軽石層が見られます(写真6)。 Kは平塚市吉沢の頭文字、lは下部、mは中部、pは軽石の英語頭文字です。 つまり吉沢ローム層下部の第13番軽石層~15番軽石層、吉沢ローム層中部の第1番軽石層~12番軽石層という意味で、ここでは下部(古い方)から1、2、と数えています。 これらは箱根火山の前期中央火口丘(浅間山、鷹巣山、屏風山など)の噴出物で、約11万年前のものです。 Pm-1は木曽御岳火山の第一軽石層で約10万年前のものです。 これらの年代からレキ層の年代も推定できます。 軽石層にはボランティアさんがプレートを付けていますので、初めての方でもどれが何だかすぐわかります。 一見、どれも同じ軽石層に見えますが、よく見る軽石の粒の大きさや色などの違いが見えてくると思います。 これらの軽石層は、かつては各地で見られたものですが、開発が進んで露頭がどんどん失われ、今ではとても貴重なものとなっています。 葛葉緑地がかながわのナショナル・トラストに認定されたおかげです。 なお、関東ローム層の軽石層については、生命の星・地球博物館ホームページの電子百科・神奈川の自然・関東ローム層(http://nh.kanagawa-museum.jp/sizen/tephra/top_menu.cgi)をご覧ください。
 

写真6:吉沢ローム層の露頭 軽石層が何枚も見える

      おわり

2017ミドリ107号「葛葉緑地で地質学にふれる」その3

目次
その1 葛葉緑地の地形-段丘崖の緑-
その2 現地案内
③その3  関東ローム層
笠間 友博
神奈川県立生命の星・地球博物館 主任研究員。
専門は火山地質学。 神奈川県内の関東ローム層中の火山灰層をターゲットに、造成地等を中心に試料収集、調査研究を行っている。

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2017年冬号


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表紙:ヤマユリ

自然への一歩 冬から春へ 池のにぎわい
阿木 二郎   手塚 真理
葛葉緑地で地質学にふれる
生命の星・地球博物館 学芸員 笠間 友博
光るミミズって見たことある?
~葛葉緑地はいろいろな生き物に出会えるよ~
自然観察施設・くずはの家 所長 高橋 孝洋
葛葉緑地 アクセスMAP
緑の募金
平成29年度
緑化運動・育樹運動コンクール受賞作品
緑の募金 緑の募金による活動報告
一里塚・
四方山話3⃣
「ムササビ」
神奈川県森林インストラクター 滝澤 洋子
事務局だより ●小網代の森
 アカテガニ放仔観察会2017
●感謝状贈呈、主催イベント ほか
ヤマユリ自生地
再生チャレンジ始動
久田緑地での
取組事業
製材体験イベント