機関誌「ミドリ」について


2015ミドリ96号「英国ザ・ナショナル・トラストのいま。(前編)」その1

ミドリ96号
2015年春号


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はじめに 『ザ・ナショナル・トラスト(正式名称The National Trust)』は、英国にて1895年に3人の市民運動家によって誕生した環境保護団体であり、大きなNGOとして、英国国内の数多くの自然景観や歴史的建造物を保全しています。

約1,200キロの海岸線、247haを超える土地に350以上の歴史的建造物や自然保護区などを資産として保有し、恒久的に保全できるよう法律のもとで守られています。また、現在トラストの会員は400万人を超え、ボランティア参加も年々増加傾向で、本年の創立120年目を迎えてなお、発展を続けています。

 今回、英国ザ・ナショナル・トラストで作品展を数多く開催している画家の小野琢正さん、NPO法人座・ナショナル・トラストサポートセンター英国事務局長の小野まりさんの両夫妻の来日に合わせて、財団事務局にお招きし、英国ナショナル・トラストの最新情報を伺いました。
 
 

写真:Coughton Court:築600年を誇る、コートン・コート。イングランド中部にありローズガーデンが有名だが、チューダー時代からヴィクトリア時代にかけての代々の当主の生活を様式を知ることができる館内装飾もすばらしい。写真は入館前にボランティアガイドから解説を聞いている訪問客。

―渡英のきっかけを教えて下さい。
小野まり  ザ・ナショナル・トラストが保有するプロパティ(Property・資産)のお屋敷で2001年に夫の個展が実現しました。しかも、好評を博すことができ、プロパティ管理のマネージャーさんやボランティアさん達から「来年もぜひ、来てください。」というお言葉をいただきました。このときから、本格的に、家族で英国へ移住することを考えだしました。

 もともと、夫は日本の自然景観をテーマに制作活動を行っており、1997年頃より当時の日本ナショナル・トラスト協会のオフィシャル・アーティストとしても活動しておりました。日本でより多くの方々にナショナル・トラスト運動を知っていただくには、ナショナル・トラスト運動発祥の地である英国から情報発信したほうがより効果的だと思い、一大決心して2002年の夏に、家族3人での英国移住となったわけです。
―作品についてお話いただけますか。

小野琢正

 もともとはシルクスクリーンという版画制作を行っていましたが、英国に移住後は水彩画を主に制作をしています。近年は墨絵作品も多いですね。作品のモチーフはナショナル・トラストの歴史的建造物です。実際にプロパティを訪れ、建物や庭園、田園風景を描いたものです。
また日本の伝統的な絵画技法を用いた墨絵は、こちらでは珍しく、日英の草の根的な文化交流として、子供対象のワークショップもトラスト内で開催したりしています。
2001年から巡回展を開始し、スケッチ取材を含めて、全国各地100ヶ所以上のプロパティを巡りました。
巡回展では原画による展示をしまして、その展示作品そのものの原画ではなく、プリントしたものを販売しています。現地プロパティの絵なので、お土産や訪問の記念として購入される方が多いですね。
なにより、プロパティでは数千円の入場料が発生しますが、トラスト会員は無料で入れるので、少しは得した気分になっていただき、ショップでの買い物に熱が入ります。
ナショナル・トラストにとって、敷地内のショップやレストランでの売上げは大きな財源となっています。そのほかにも、施設内では地元の農家のオーガニックのりんごジュースを売っていたり、敷地内の畑や庭でできた野菜などを販売していたりととても賑やかです。

(参考:年会費 個人58£、家族60.5£~/2015.1月現在(円換算約180円/£))

(つづく)
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2015ミドリ96号「英国ザ・ナショナル・トラストのいま。(前編)」

目次
①前編その1 英国ナショナル・トラストへ
前編その2 会員400万人
前編その3  資産(プロパティ)保全の資金調達


=プロフィール=
小野琢正氏
独自の「水性」シルクスクリーン版画を生み出し、国内外の美しい自然を描き続ける。1999年日本ナショナル・トラスト協会のオフィシャル・アーティストとして英国に渡り、トラスト保全地を描く。
 2001年からトラスト保全地で、日本人として初めて3ヶ月に及ぶ巡回展「HENRO」展を開催。その後も英国ナショナル・トラストにて毎年開催され、今年で15年目を迎える。
(オフィシャルページ http://www.takumasaono.co.uk)

小野まり氏
 NPO法人ザ・ナショナル・トラストサポートセンター代表及び同英国事務局長。著書に「図説・英国ナショナル・トラスト紀行」「図説・英国湖水地方」「図説・英国コッツウォルズ」「図説・英国インテリアの歴史」(河出書房新社)などがある。(ザ・ナショナル・トラストサポートセンター http://ntscj.org)

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