●野生動物の生息状況に最も大きな影響を与えてきた要因は、私たち人間のさまざまな生産活動である。私たちにとって馴染み深いはずのニホンリス、ムササビ、キツネなど里山を代表する野生動物でさえもが、レッドデータ度を高めているのが現状である。
●近年、都市部や住宅地に出現するタヌキやイノシシが話題になることがある。私たち人間から見ると「何で、こんな所に・・・・」と思うが、野生動物にとっては追い出された生息地に「戻って来ただけ」なのかもしれない。私たちができること、やらなくてはならないことは、このような状況に至った経緯を考えるとともに、日常生活における価値観やライフスタイルを見直すことではないだろうか?
【1】野生動物の個体数を増加させる要因を作らない
●農林業被害の防止策の一つの考え方は、野生動物の分布域を広く確保し、生態系の持つ環境収容力で、種の存続に支障をきたさない地域個体群を管理することである。これは、野生動物保護管理計画の原則的な考え方としてもあてはまるであろう。
●つまり、野生動物にエサを与えたり、食べ物となり得るゴミを放置しないことなど、個体数を急増させる環境条件を作りださないことが重要である。
【2】野生動物の生息環境へのダメージを少なくする
●私たち人間の生活の多くのことが、野生動物に対して影響を与えていることを認識する必要がある。直接的、意図的、意識的に影響を与える場合として開発等があげられる一方で、間接的、非意図的、無意識に影響を与えている場合として、里山環境や人工林の放置等があることを忘れてはならない。
●また、レクリェーションの一つとして私たちが行う登山やハイキングなど、自然を求めて野生動物の生息域に足を踏み入れることさえも、少なからず影響を与えているはずである。特に、オーバーユース、車両の乗り入れなどは、自然環境に与える影響は大きい。
【3】外来種によって在来種の生息を脅かさない
●飼いきれなくなったペットを捨てることは、動物愛護の問題にとどまらない。飼育動物を逃がしたり、あるいは趣味鑑賞用として外来種を意図的に放すことは、在来種によって構成される生態系の破壊、生物多様性保全の観点からも重大な問題である。
●外来種の定着と拡散を防止するには早期発見、早期対応に加えて、駆除や封じ込めが必要となるが、一度定着した外来種対策には膨大な費用と労力が必要である。予防策として普及啓発活動が重要だが、場合によっては監視体制の強化、法的規制も必要であろう。
【4】むやみに野生動物に触れない
●春から初夏にかけての野鳥の繁殖期には、自然環境保全センターにも多くのヒナが持ち込まれる。人間にとっては「保護」のつもりでも、野鳥にとっては「連れ去り」であることを認識する必要がある。
●たとえ、野生動物の生息域と私たちの生活環境が重複していても、むやみに野生動物に手を出したり、触れるべきではない。私たち人間の存在は、野生動物にとって恐怖以外の何者でもないはずである。また、野生動物の防衛行動によって思いがけないダメージを受ける危険性もあり得るとともに、人獣共通伝染病によりお互いに疾病感染の危険性もある。
【5】野生動物の存在を認識し、その生息環境について考える
●神奈川県でも野生動物やその生息環境の衰退は著しい。これは、私たち人間が野生動物や自然環境をどのように扱って来たかという反映に他ならない。もともと私たちの身近な場所にも野生動物は生息していたこと、そして現在もかろうじて生息していることに気づくことが、まず重要である。
●また、野生動物の存在が、私たち人間にとってかけがいのないものとして位置づけるとともに、その生息環境を保全することは、人類の未来にとっても重要な課題と認識する必要があるだろう。