財団概要

 

25周年記念シンポジウム〜トークセッション2 身近な自然を考える〜トラスト運動のこれから〜

25thトップページに戻る

かながわのナショナル・トラスト25周年記念シンポジウム トークセッション1 養老孟司氏を囲んで

岸 由二 氏
慶應義塾大学教授、専門は進化生態学、流域アプローチによる都市再生論、環境教育等。小網代の森の保全活動に取り組む
池谷奉文 氏
(社)日本ナショナル・トラスト協会会長、美しいくにづくり、まちづくりの政策を提案するシンクタンクの(財)日本生態系協会会長
新堀豊彦 氏
(財)かながわトラストみどり財団理事長、神奈川の自然環境保護活動に取り組む神奈川県自然保護協会会長を長年務めた。昆虫調査(カミキリムシ)がライフワーク
司会 長友真理 氏
日経ナショナルジオグラフィック社

長友 :

ナショナル・トラスト運動の始まりであるイギリスの「ザ・ナショナル・トラスト」についてうかがいたいのですが。

池谷 :

19世紀イギリスで始まった産業革命は皆さんご存じのとおりで、世界を大きく変えた石炭というエネルギーを獲得し、結果、大英帝国が世界の陸地の約4分の1を占めるまでの勢力を誇ったわけです。しかし文明の利器は良い面と悪い面がありまして、実は公害問題はここから始まりました。工業化や都市化の波は大きく広がり、市民の生活環境を悪化させてしまったのです。
イギリス全土の土地はもともと森林だったところで、文明が発達するに従ってどんどん伐られていきました。原生林はロンドンの近辺にわずかに残るぐらいでほとんどありません。イギリスの風景について、延々と丘陵地が連続する草原地帯を思い浮かべますが、もともとは違うわけですね。
そこで、貴重な自然環境や歴史的建造物を後世に残していこうと、市民活動家のオクタビア・ヒル、弁護士のロバート・ハンター、牧師のハードウィック・ロンスリーという3名が中心となって、1895年に、「ザ・ナショナル・トラスト」を設立します。その活動によって現在25万ヘクタールの土地と1,100キロの海岸線、350もの建物や庭園を保全しています。25万ヘクタールというと、東京都よりもっと広い面積になります。また美しい海岸線を買い取ろうという計画が非常に国民に受けまして、会員が急激に増え、現在370万人の会員がトラスト運動を支援しているわけです。

新堀 :

かながわのナショナル・トラストでも会員制度による協力を呼びかけておりますが、なかなかイギリスのようにいかない厳しい状況です。それを打開するため、会費を自分の指定する緑地へ支援できるトラスト緑地保全支援制度を立ち上げました。年2,000円程度の普通会費にプラスして、岸さんの小網代の森も含め、久田(くでん)緑地、桜ケ丘緑地のいずれか1ヶ所を指定して3,000円の緑地支援会費をいただく、合計して年間5,000円会費の仕組みです。これにより緑地の維持管理や自然再生が進み、良好な緑地を次の世代へ引き継ぐ活動が推進できます。

岸  :

これまで小網代の森の保全のため、全国の大企業から助成金を頂いて活動してきたのですけど、今年はゼロになりました。「小網代さん完全保全おめでとうございます」、土地は保全されたのでもう助成金はいらないですよねって、申請してもつかなかった。助成する側からすれば緊急度の高いところにつけるのが当然ですから、しょうがないといえばしょうがない。今年は今まで貯めていたわずかなお金と、かながわトラストみどり財団からの助成だけでやっているので、そろそろ兵糧が尽きます。
ただし本当に幸いなことですが、トラスト財団の助成金に期待できる仕掛けができています。支援会員制度ですね。先ほど話になったイギリスのトラストは、標準会費が5,000円程度だと思います。その仕組みに合うよう制度化されたものです。ぜひトラストの支援会員に登録していただき、小網代を指定してくだされば、緑地保全の会費が調整会議に支援されます。桜ケ丘頑張っているな、久田も再生活動大変そうだなとか、応援したい気持ちを会費に変えて、厳しい状況の市民団体を支えていく仕組みなのです。

長友 :

かながわトラストみどり財団のこの仕組みは全国と比べてみるとどうでしょうか。

たい肥づくりのための落ち葉かき(久田緑地) 写真提供:久田くらぶ

池谷 :

ここまできちっとなさっているところは少ないと思います。行政と市民と連携した取り組みで、持続的な活動といえます。トラスト活動は別の視点からみると、行政がなかなか出来ない部分を担っていたりするのです。至って補佐的ですが、それと共に先導的な意味もございまして、行政を引っ張り出すという意味合いもある訳です。

長友 :

神奈川のトラスト運動の課題についてお聞きしたいのですが。

新堀 :

お話にありますようにイギリスの場合は、トラスト運動の最初の始まりは、個人の献金から始まりました。ところが日本の場合はどうもそういう傾向が弱い。一般の方々が寄付や募金として、社会福祉には出すけど、文化財とか自然環境とかに対しては難しいところが現状としてあります。また、大企業などは自然環境を確保するということが、どれだけ公益に帰するかということを余り考えてくれなかった時代が長く続いていたわけです。これから企業がある程度理解してもらって、こういうものに協力していただける方法を検討しています。

池谷 :

企業活動というのは、太陽光線と空気と水と多くの野生生物と、その生態系サービスをもらって企業活動が出来ているのに、その恩返しをしていただけない。これじゃいい社会が出来ない訳で、企業精神にもやはり絆と思いやりが必要じゃないでしょうか。
私どもの日本生態系協会にはドイツの事務所があり、30年程やっているのですが、近年ドイツの企業がずいぶん変わってきています。大手自動車会社の本社に行ったのですが、会社として自然環境を保全していくことを積極的に協力している。なぜそこまでやるのかと、幹部の方に聞いたら何て答えたと思います?「健全な生態系があって、健全な社会が出来る。我々企業も社会の一員だから、健全な生態系を取り戻す義務があると思います」って。社会貢献ということじゃなくて、自然生態系が生存基盤だから、減っちゃったら人間も生きられないし、企業も生きられない。当然それは取り戻す義務があると。さて日本の企業を考えてみて、そこまで言える企業ってどこにあるのだろうと。本当思いましたね。

岸  :

皆さんが株を買って投資する。投資するっていうはその企業に賭ける訳でしょう。私が投資している会社は生態系を守る名誉ある会社だ。だから配当第一でなくてもいい。そう思える人たちが企業を安定的に支えていける社会通念を生む必要があるでしょうね。しかしまだ行政が厳しいことをいうかもしれませんね。自然観察会にうちの商品を宣伝させて下さいって企業が来るとダメでしょう。でもネーミングライツ(施設命名権)は許される。面白いですね。
それって、実は、よく考えると行政のせいでも何でもなくて社会のせい。私たちのセンスなのです。良い事をする企業なら宣伝してもいいじゃんって皆が思えば出来るんだけど、日本人はそれを認めにくい。欧米の自然保護の雑誌なんか見てください。企業の宣伝だらけですね。

池谷 :

先程のドイツの企業の話を考えてみるとやはり、ドイツでは生態系の大切さの意識が芽吹いてきたということでしょうか。まさに40年前のヨーロッパの国々も自然環境を失ってこれはまずかったと思った。それで何をやったかと言うと、環境教育ですよ。子供たちが環境教育をそれぞれの年代から始めて40年経った。そして人が変わり、企業も変わってきた。やっぱり根っこって教育ではないでしょうか。ここをちゃんとしないと、何年経ってもうまくいかないのだろうという感じがしますね。

岸  :

小網代で今一番力を入れているところですが、小網代の干潟のゴミ掃除をする活動として地元の子供達に集まってもらい“子供・小網代・ボランティア”通称ココボラという活動を行っています。
ちなみに大人はオオボラって言います(笑)。小網代の森の中で活動してもらい、自然の素晴らしさやボランティアに参加する楽しさを知るきっかけになればと思っています。

  • トークセッション1 養老孟司氏を囲んでの対談
  • トークセッション2 身近な自然を考える トラスト運動のこれから
  • 特別対談 トラスト緑地で話そう 小網代の森

ページの先頭へ